落語 崇徳院
大店の若旦那が寝込んでしまい医者が診てもよくならない。
病気以外に何か理由がありそうだが、誰にも話さないから手の打ちようもない。
だが幼馴染の熊五郎になら理由を話してもいいということになった。
熊さんがよくよく確かめてみれば原因は恋煩い。
二十日ほど前に上野でお参りした後、茶屋で品のいいお嬢さんの茶袱紗を拾ってあげたという
すると目の前に短冊が落ちた。そこには百人一首のある歌が書かれており、お嬢さんは上の句だけが書かれた短冊を若旦那にそっと渡し去っていった。
若旦那:
「"背をはやみ 岩にせかるる 滝川の"…と上の句が書いてありまして…」
熊さんにはさっぱり意味がわからないが、続く下の句が「割れても末に あはむとぞ思ふ」今は別れてもいつかは一緒になりたい夫婦になりましょうという意味だと若旦那は言う。
若旦那:
「熊さんお嬢さんを探してきてくれませんか もう二十日も何も喉を通らないのです…」
熊:
「馬鹿言っちゃいけねえ そんな手がかりじゃあ」
若旦那が寝込んだ原因を大旦那に話すと
もしもそのお嬢さんを探してきてくれたら、熊さんが住んでいる長屋を丸ごとやるという約束を大旦那と交わす熊さん。
町中を東奔西走するが、どこの誰ともわからない。なんせ手がかりが崇徳院の歌だけ。
女房の助言で湯屋や床屋など人の集まるところに行っては「瀬をはやみ~」と大声を出してみるがなかなか見つからない。
もうだめかとクタクタで入った床屋で恋煩いのお嬢さんのために、どこかの若旦那を探していると言う男にたまたま出会う。
男の話によると「瀬をはやみ~」の歌だけが頼りだと言う
熊:
「それは俺が探しているお嬢さんだ!連れて行ってくれ!」
男:
「俺が探しているのもおまえさんとこの若旦那だ!」
お互いご褒美がかかっているから必死の形相で自分の雇い主の所へ相手を連れて行こうとする。
とうとう揉み合っているうちに床屋の鏡を割ってしまい、文句をいう床屋の店主に対し熊さんが
熊:
「なあに心配するな、割れても末に買わんとぞ思う」
落語 崇徳院 江戸時代の結婚相手探しについて
落語 崇徳院について。
崇徳院のラストはお互いの居場所もわかり、両親も公認ということでこの後はハッピーエンドであることが予想されます。
ただこのように恋愛結婚ということは一般的ではなかったようです。
ある程度の規模のある商店の若旦那やお嬢さんの場合、芝居小屋の桟敷席をお互いに取り仕草や立ち振る舞いを確かめたり、花見の席などで偶然を装って当人同士を引き合わせたりしたそうです。
長屋の町人の場合、たらちねのように大家さんや世話好きのおばさんの紹介で結婚相手を見つけたりすることがよくあったそうです。
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町人も娘を武士に嫁がせたとあれば箔が付きますし、武士も家計が助かるメリットがありました。
※上級武士の家だと政略的な意味もあってこのようにはいきません。
江戸の町は初期は男性の比率が高く、生涯未婚ということも珍しくなかったのではないでしょうか。
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