落語 紀州のあらすじ 徳川宗家と御三家将軍継承について
紀州(きしゅう)
七代将軍の家継が8歳の若さで亡くなってしまった。
跡継ぎがいないため、八代目の将軍は御三家のうち尾張か紀州の徳川家から迎えることとなった。
将軍が決まるという朝、尾張の尾州公が籠で江戸城に向かう途中、鍛冶屋の前を通ると刀を打つ音がする。
トンテンカン、トンテンカン
野心的な尾州公にはこの音が
テンカトル、テンカトル(天下取る)
と聞こえてきた。
尾宗公:
「これは吉兆。次の将軍の座は余のものだな」
と上機嫌で登城する。
大広間 尾州公、紀州公揃ったところで老中が尾州公の前へ進み出て
老中:
「天下万民のため任官あってしかるべし」
八代将軍に就任するよう求められたが、あまりあっさり引き受けてしまうと、ありがたさがないと思い一度は断ることにした尾州公
尾宗公:
「余は徳薄くして任にあたわず」
すると老中は
老中「承知つかまつりましてございます」
とあっさりあきらめて引き下がってしまう
次に老中は紀州公の前へ
紀州公は
紀州公:
「天下万民のためならば」
と快諾し八代将軍は紀州公にめでたく決まってしまった
がっかりして帰る途中、再び鍛冶屋の前で刀を打つ音は相変わらず
テンカトル、テンカトルと聞こえるが
やがて鍛冶屋が真っ赤になった刀身を水の中へ入れると
「キシュー(紀州)」
御三家と八代将軍継承について
七代将軍徳川家継が夭逝してしまい、家康から続いてきた徳川宗家の血筋が途絶えてしまいます。
こういう事態に備えて、尾張、紀伊、水戸の三藩に御三家が控えとして創設されています。
この噺に登場するのは尾宗公=尾張の徳川継友 紀州公=紀伊の徳川吉宗ですが、水戸の徳川綱条(つなえだ)も候補に挙がっていました。
吉宗の母親は農民の出身で、血筋的には尾張の継友、年齢では水戸の綱条でした。
しかし紀州の藩主として12年の経験、藩の財政を黒字化した実績と6代将軍家宣の正室 天英院の後押しで八代将軍に抜擢されたと言われています。
噺と異なる点は、徳川実紀によると吉宗は「本家、老臣の公議に従う」と一度退きますが、幕臣一同の意見が一致していると告げられると任を受けたということです。
関連記事
-
-
落語 質屋蔵のあらすじ オチの流される~利上げせよの意味は?
質屋蔵 伊勢屋の質草を預かる蔵に怪奇現象が起こるという噂が立つ。本当かどうかわからないが 放っ
-
-
落語 宗論のあらすじ 宗論はどちらが勝っても釈迦の恥
宗論 店が忙しいというのに若旦那が朝から姿を見せない。 番頭の話によると どうやら若旦那はキ
-
-
落語 看板のピンのあらすじ ちょぼいちのルールとは
看板のピン 若い衆が集まるサイコロ賭博にこの道ではかなり年季の入った渋い親分がふらりと現れる。
-
-
落語 茶の湯のあらすじ 江戸時代の隠居年齢は?
茶の湯 さる大店の主人が店を息子に任せて隠居することになる。そこで根岸に隠居用の屋敷を建て、身の回
-
-
落語 猫の忠信のあらすじ 義経千本桜のパロディー部分を解説
猫の忠信 次郎吉が長唄の稽古に行こうと同じ長屋に住む六兵衛を誘いにくるが 六兵衛はもう馬鹿馬鹿しく
-
-
落語 夏の医者のあらすじ 食あたりの原因チシャ(萵苣)とは?
夏の医者 病気になった父親のために息子が医者を呼びに行く しかし一番近くの医者でも山を越えて六里
-
-
落語 船徳のあらすじ 吉原通いに使われた猪牙舟(ちょきぶね)
船徳 柳橋の馴染みの船宿で居候をしている若旦那。なにやら思うところがあり 自分も船頭になりたい
-
-
落語 錦の袈裟のあらすじ 袈裟の種類と寄付者について
錦の袈裟 町の兄貴分が若い衆を集める。なんでも隣町の若い衆が揃いの縮緬の長襦袢で吉原に繰り出し
-
-
落語 権兵衛狸のあらすじ
権兵衛狸 一人暮らしの権兵衛が一杯飲んで寝ようとしていると いきなり家の戸を叩く音がする。同時
-
-
落語 つるのあらすじ 江戸時代鶴は食用にされていた?
つる ご隠居の家に遊びにきた八五郎今日も今日とて馬鹿話をしている そのうちこの間見た鶴の掛軸