分かりにくい落ち 怪談噺

落語 鰍沢のあらすじ 旅人が唱える題目と念仏の違いとは?

落語 鰍沢のあらすじ

身延山へ参詣に来た旅人が途中で吹雪に遭遇して道に迷ってしまう。

鰍沢 吹雪の山

旅人:
「南無妙法蓮華経 このままでは行き倒れてしまう…」

そう思った時 お題目のご利益か山奥の一軒家にたどりつく これは地獄に仏と駆け寄り戸を叩く旅人

旅人:
「私は身延山にお参りに来たものですが吹雪に遭い往生しております 中に入れてもらえませんでしょうか?」

中から出てきた女性は「何もないところですが」と屋内に招きいれてくれた

中で火に当たると一時は死も覚悟していた旅人もやがて落ち着いてくる

すると先ほど招き入れてくれた女性の世間と隔絶された一軒家とは不釣合いな美しさが気になってくる

旅人:
「つかぬことをお伺いしますが もしや昔江戸におられませんでしたか?」

おかみさん:
「私は元々江戸の者なんですよ」

話しているとおかみさんは本名をお熊といい 吉原にいた

そこで恋仲となってしまった薬屋の伝三郎と心中騒動を起こし 江戸から落ち延びこの地で熊の膏薬を売って暮らしているのだという

3年ほど前に客として会ったことがあるという話をしているうちに時間が経っていく

旅人は助けていただいたお礼にと二両を包んでおかみさんに渡すと

小判

「まあこんなに頂いては」と遠慮するおかみさんだったが 元遊女の金に敏い眼光が一瞬戻ったように見えた

しかし旅人はそれに気づかない

「身体が温まりますから玉子酒はいかがですか?」と勧めてくるおかみさんことお熊

「これはありがたい」と玉子酒を少し口にしてみたが 元来下戸なのと疲れで急に眠気が…

フラフラになった旅人を寝所に案内するお熊 旅人を寝かせて囲炉裏に戻ると夫の伝三郎が帰っていた

伝三郎:
「亭主が仕事に行っている間にこんなもん飲みやがって」

と残った玉子酒をクイっと飲み干す伝三郎

お熊は慌ててとめようと思ったが時すでに遅し

お熊:
「その玉子酒には毒が入っているんだよ!」

なんとお熊は旅人に毒を飲ませて殺し 路銀をすべて奪うつもりだったのだ

毒を飲んでしまい苦悶の表情を浮かべる伝三郎と介抱するお熊

恐ろしい計画を聞いてしまった旅人だったが逃げようにも毒が回ったせいか身体が言うことを聞かない

なんとか見つからないように外に出る旅人

南無妙法蓮華経と唱えて毒消しのお札を雪と一緒に飲み込むとお題目のご利益か?身体が動くようになる

そこへ脱走に気づいたお熊が 逃がしはしないと猟銃を持って追いかけてくる

鰍沢 猟銃

雪深い斜面を登って逃げるが崖と鰍沢の急流で行き止まり とうとう追い詰められてしまう

「南無妙法蓮華経これまでか…」と思ったところで足元の雪が崩れ旅人は崖から川へ落ちてしまう

鰍沢 筏

だが落ちたところはちょうど筏の上 筏は衝撃でバラバラになるが最後の一本にしがみつく

崖の上には執念深く命を狙うお熊が猟銃を旅人を狙ってズドン

南無妙法蓮華経とお題目を唱え続ける旅人 弾は旅人の髷をかすめただけで直撃を免れた

そのまま材木につかまったまま流されていく旅人だったが ここまでくれば大丈夫

鰍沢 材木

旅人:
「なんとか命拾いした お祖師様とお材木(題目)のご利益で助かった」

鰍沢 オチのお材木(お題目)のご利益について

噺の途中で何度も出てくる「南無妙法蓮華経」これを唱えることがお題目

お題目を唱えてご利益があった!おかけで材木につかまることができて助かった!という意味になります

でもよく考えると吹雪の中で川に落ちたわけなのでお熊の猟銃からは逃れることはできましたが その後はどうなったんでしょう…

考えただけでも寒気がしてきます(笑)

お題目とお念仏の違い

南無妙法蓮華経と唱えるのがお題目なら お馴染みの南無阿弥陀仏と唱えるのはお念仏となります

よく見ると両方とも「南無」という字が共通していますね

南無=サンスクリット語のナマスを音写したもので 帰依します、信じますという意味になります

ということはお題目の意味を考えると

妙法蓮華経とは日蓮宗が重視する経典 法華経の正式名 法華経の教えに帰依します信じますという意味となります

一方 南無阿弥陀仏は阿弥陀仏(阿弥陀如来)に帰依します信じますという意味です

浄土系宗派で唱えられる南無阿弥陀仏ですが 阿弥陀如来を信じ名前を呼ぶ者(念仏する者)は悪人善人問わず死後 極楽浄土へ生まれることができますという教えです(救われるのは死後の話)

お念仏の上記の意味を踏まえて考えてみましょう。落語で南無阿弥陀仏と唱えるシーンを思い浮かべてください…

・幽霊やおばけが出てくるシーン
・武士に刀で切られそうになるシーン

こんなシーンで懸命に南無阿弥陀仏南無阿弥陀仏と唱える=阿弥陀如来を信じます と信仰を表明してもなあ…

いや私 死後しか救わないし…と困ってしまいそうです

※お念仏をディスりたいわけではありません

一方 南無妙法蓮華経のお題目は現世でも利益があると日蓮宗の開祖日蓮は説きました。(噺の中に出てくるお祖師様とは日蓮のこと)

旅人の目的は日蓮宗の総本山 久遠寺がある身延山へ詣でること そこで信心深くお題目を唱え続けたおかげで命が助かった

落語ではありますが仏教説話のような噺ですね

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