落語 たらちねのあらすじ 女子が目指した武家屋敷への奉公について
たらちね
人は良いが貧乏なためになかなか嫁の来手がなかった八五郎に長屋の大家さんが縁談を持ち込んだ。
しかも、相手の器量は人並み以上、年齢も二十五と八五郎の年とちょうどいい。家事全般の花嫁修業は済ませており、家財道具まで持参するという。
願ってもない条件だが、逆に八五郎はいぶかしがる。大家さんに事情を尋ねるとやはり少々傷ががあるという。
八五郎「どうも話がうますぎると思った。いいことずくめの嫁が俺のところに嫁ぐわけありませんやね。傷っていうと…横っ腹に穴が空いてるとか?」
大家さん「割れた花瓶じゃあるまいし。傷というのは他でもない、実は屋敷奉公のせいで言葉が丁寧すぎるんだ」
八五郎「丁寧すぎる?いいじゃないですか、俺なんか乱暴すぎるって怒られるんだから、こいつはちょうどいい俺と連れ添ってりゃそのうちぞんざいになりますよ。ぜひその縁談進めてください」
祝言の日取りも決まり八五郎は大はしゃぎ、夫婦でご飯を食べる練習をして大家さんにあきれられる始末。
そうこうしているうちに待ちに待った日になり、大家さんがお嫁さんを連れてきた。婚礼の後二人きりになるが慌てものの大家さんはお嫁さんの名前を八五郎に伝え忘れる。
八五郎「いけねえ、名前を聞いてなかった。お前さんの名前は?」
花嫁「自らことの姓名は、父は元京都の産にして姓は安藤名は慶三、字を五光、母は千代所と申せしが、わが母三十三の折、一夜丹頂鶴の夢を見わらわを孕めるがゆえに、たらちねの胎内を出しときには鶴女鶴女と申せしが、それは幼名、成長の後これを改め清女と申しはべるなり」
八五郎「恐ろしく長い名前だな。呼ぶのも大変だ。明日相談しよう」
あくる朝、嫁は朝食の支度を整え、両手を付いて丁寧な言葉で八五郎を起こす。
花嫁「あ~ら我が君、もはや日も東天に召しまさば、早々にご起床召され。うがい手水に身を清め、神前仏前に御灯明を供え、御飯召し上がって然るびょう存じはべる。恐惶謹言」
八五郎「おい何を言ってるんだ。朝飯で恐惶謹言?なら酒を飲んだら、よ(酔)ってくだんのごとしかい?」
さげの部分について
恐惶謹言…手紙の最後に記す、ものすごく丁寧な挨拶文。八五郎は手紙の終わりにつける通常の決まり文句”因って件の如し(よってくだんのごとし)”で応じている。
女性の屋敷奉公について
江戸時代、女子には教育は不要とする考え方も根強かった一方で、良妻賢母となるための読み書き、礼儀作法、舞踊などを身に付けさせる親も多かったといいます。
多くの教養を身につけた後、武家や商家に奉公に出て実践学習することが理想とされました。
屋敷奉公の職に着くのは狭き門であり、そのキャリアは玉の輿のための条件の一つとなったそうです。
屋敷奉公経験者なのに普通の町人である八五郎に嫁いでしまうあたりは、落語の面白いところだと思います。
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