落語 大山詣りのあらすじ 江戸時代の行楽だった寺社参拝
大山詣り
長屋の男衆が揃って大山詣りに出かけることになった。行楽半分、信心半分の旅ではあるが、曲がりなりにも参詣ということで道中で腹を立てたものは※二分の罰金、暴れたものは丸坊主という約束を長屋の者と先達(案内人)は交わす。
しかし無事に参詣も終わり、江戸への帰途で泊まった旅籠で酔った熊五郎が大暴れしてしまう。八五郎と金公が湯に浸かっているところへ、熊五郎が狭い湯船に無理やり割り込んできたのがきっかけになったという。
八五郎:
「先達さん、俺たち二人は腹を立てたから罰金を払いますが、熊五郎は坊主にしますからね」
およしなさいと二人を止める先達だったが、二人は決まりということで罰金を払ったあと、熊五郎が寝ている間に坊主にして、しかも置いてきぼりにして旅籠を出発してしまう。
翌朝目を覚ました熊五郎が怒ったのなんの
熊五郎:
「人の頭を剃った上に、置いてきぼりまで食らわすとは!ひでえ野郎だ」
とカンカン
仕返ししてやろうと早籠で八五郎たちを追い抜き、長屋へ先回りする。
長屋に帰ると手ぬぐいを頭に巻いて女房連中に集まるように声を掛け、集まったところで籠の中で考えたストーリーを話す
熊五郎:
「無事に大山詣りをすませたところで、みんなで船に乗って米ヶ浜の祖師にお参りしようということになったんだが、俺はあいにく腹の調子が悪くて宿で休んでいたんだ。するとにわかに海に風が出てあっという間に船は転覆、全員ドザエモンになっちまったんだ」
それを聞いてワっと泣き出すもの、信用できないと言うもの、そのタイミングで熊は頭に巻いた手ぬぐいをパっと取って坊主頭を見せる
熊五郎:
「この頭を見てくれ。俺だけ生き残っては申し訳ないから、これから高野山で連中の菩提を弔おうと思う。おまえたちも尼になって一緒に念仏を唱えようじゃないか」
熊五郎の言葉を信じた女房たちは、亭主の供養のために皆で髪を剃り、一緒に念仏を唱え始める。
そこへ長屋の男衆が帰ってきた。丸坊主になった女房たちを見てびっくり。それが熊五郎の仕業だと聞かされると怒り心頭
八五郎:
「おい熊五郎、よくもかかあ達を坊主にしてくれたな!」
今にも喧嘩が始まりそうなところへ先達が割って入る。
先達:
「まあまあ、そんなに怒ることはない。これはめでたいことです」
八五郎:
「なんだって?かかあを坊主にされて何がめでたいんだい?」
先達:
「お山は晴天、うちに帰れば皆無事で、お毛が(お怪我)なくておめでたい」
※罰金二分は今の金額にすると約五万円程で結構な金額と言えます
行楽と同義だった大山詣り
大山詣りとは大山の山頂の阿夫利神社に参詣することを言います。ただの参詣ではなく、しきたりがあり、まず両国橋の東詰めにある水垢離場で身を清め、道中の安全を祈願そろいの半纏、鉢巻を締め神社に奉納する木刀を持って出かけました。
ただ、参詣が終わると精進落しと称して、芸者を上げてどんちゃん騒ぎをするグループも多かったようです。大山側もそれをわかっていたので、その手の客を見込んで茶屋や宿が栄えたといいます。(その他の門前町もそういうところが多かったとか)
また通常は噺のように長屋や仕事仲間と講(こう)という団体を作り揃って参拝を行いました。行き帰りの行程にして三四日、箱根の手前なので関所もなく、女房の目を避けて羽目を外すには絶好の口実になったと思われます。
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