落語 紙入
出入り業者の新吉のところに得意先のおかみさんから手紙が届く
今晩は旦那が帰らないから云々と…
実は新吉とおかみさんは旦那に隠れていい仲になっていたのだ
新吉は夜になってからおかみさんの元を訪ねる。
おかみさん:
「あら新さんいらっしゃい。今夜はゆっくりしていってね」
と手を取ったところで表の扉をドンドン叩く音
旦那:
「お~い帰ったぞ~俺だ開けとくれ」
今夜は戻らないはずの旦那が帰ってきたもんだから新吉は大慌て
オロオロする新吉をよそにおかみさんは妙に落ち着いている。
慌てふためく新吉を手際良く裏手から逃がしてくれた。
帰る道すがら新吉は忘れ物がないかを確認する。
新吉:
「足袋は履いてるし、羽織も着ている… ああ!紙入れがない!」
その紙入れはというと旦那からもらったばかりではなく、おかみさんからもらった手紙まで入っているもんだから、新吉は青ざめた。
旦那にもらったものだから、一目みれば新吉がそこにいたことがバレてしまう
このまま遠くへ逃げてしまいたいがそうも行かない
新吉:
「バレたとは決まったわけじゃない。明日旦那に会って確かめてから逃げよう…」
翌日、新吉は足取り重く旦那の元を訪ねる
新吉:
「ごめんください」
旦那:
「ん?なんだ新吉か入りなさい」
旦那の顔色を窺ったが、元々愛想のよい人ではないからバレているようなバレていないようなでわからない。
旦那:
「新吉おまえはとんでもないやつだ」
新吉:
「ひえ~バレてましたか」
旦那:
「なんのことだ?おまえ俺の頼んだ着物をいつになったらもってくるんだ?ずいぶん経つぞ」
新吉:
「そのことでしたか 実は今日は暇ごいに上がった次第でして急に旅に出ることになりました」
と新吉が切り出すと旦那は
旦那:
「なんだ?仕事でヘマでもやらかしたか?何?間男?おまえいい度胸じゃないか」
新吉:
「ひぃ…実はその店にちょくちょく出入りしているうちにおかみさんに目をかけてもらいまして、旦那のいない間につい…」
旦那:
「で?それはもう相手にはバレてるのか?」
新吉:
「バレてるようなバレてないような…実はその家に紙入れを忘れてきてしまいまして」
おどおどする新吉にここでおかみさんが助け船を出す
おかみさん:
「新さん安心しなよ 旦那のいない間に男を引き込むようなおかみさんだよ 紙入れなんてとっくに隠してあるよ」
旦那:
「その通りだ新吉 女房を寝取られるような間抜けな亭主だ 紙入れなんて落ちてても気付くまい」
落語 紙入れ 江戸時代の不倫について
落語 紙入れについて。
江戸時代 密通をした男女は両方とも死罪と決まっていました。また夫が妻の密通現場を押さえた場合、その場で妻と間男を殺してしまっても罪には問われませんでした。
死罪と決まっていたから斬ってよいという理屈でしょうか?なんとも大雑把な時代です(笑)
ただ実際は間男を殺すということはほとんどなく、夫に示談料を慰謝料を払って示談することが多かったようです。その相場は7両2分で現代の金額に換算すると75万円ほどとなります。
※1両を10万円として 1両=4分
もちろんこの噺のように家に男を引き込むような肝の据わった女性は少なかったと思われますが…
密会に使われていたのは「出合茶屋」とか「貸座敷」といい 現代で言うところのラブホテルに相当する場所です。
不忍池の周辺がそういうスポットになっていたと言われます。
利用料金は1分(4分の1両)くらいで現代の貨幣価値で2万5千円、若者が気軽にというわけにはいかなかったようです。
・出合い茶屋あやうい首が二つ来る
という川柳も残されているように場合によっては命を落とす可能性もあったため不倫は命がけだったようです。