落語 目黒のサンマのあらすじ 大名や武士が食べなかった魚とは
目黒のさんま
秋の晴れた日に家来を伴って遠乗りに出かけた さる国の殿様
目黒の辺りに着いた所でくたびれて腹が減って仕方がない。
家来たちに食事の用意をさせようとしたが、家来たちも急なことで用意が出来ない。
すると近所の農家からおいしそうな匂いがただよってきた
殿様:
「いずれかで魚を焼く匂いがするが、たいへんよい匂いじゃ」
家来:
「ははーっ、あちらはサンマを焼く匂いと存じます」
殿様:
「なに、余はそのような魚を食したことがないぞ」
家来:
「サンマは庶民の食す下魚でございます。殿のお口に合うものではございません」
殿様:
「余は空腹である。サンマを用意いたせ」
殿の強引なお願いに家来は困ったが、なんとか農家の主人に焼いたサンマを分けてもらい献上する。
家来:
「殿こちらは下々の者たちが食すものにて、なにぶんご内密に」
脂の乗ったサンマを食した殿様はその味を気に入ってしまい、屋敷に戻ってもサンマがの味が忘れられない。
サンマのような下魚は殿様のご膳にのるわけもなく思いは募るばかり。
ある日、親類に招かれて設けられた宴席で
「お望みの料理は」と聞かれ殿様は迷わずサンマを所望した。
料理番たちは殿様がサンマを?と訝しがりながらも日本橋魚河岸でサンマを調達する
それにしてもこのような脂の乗った魚をお出しして何かあったら一大事
身体に障らぬよう蒸して油を落とし、小骨も刺さらぬよう一本一本毛抜きで丁寧に抜いて、つみれのようにしたものを吸い物にして、御前に出した。
殿様は出されたサンマの似ての似つかぬ形を不満に思うが、確かにサンマのにおいはする。
ただ当然のことだが食してみると、農家で食べたものとはまったく別物。蒸して脂が抜いてある それでは美味しくないのも無理はない。
落胆した殿様
殿様:
「これ、このサンマはいったいどこから取り寄せた」
家来:
「ははっ日本橋魚河岸より吟味して取り寄せました」
殿様:
「それはいかん。サンマは目黒に限る」
江戸時代の目黒について
おそらく落語の中でもっとも有名な噺である目黒のサンマ
当時の目黒は地名の元になった目黒不動尊があり、門前町の周辺に町があったが大部分が草原、山林であったそうです。
解説不要と思いますがサゲは世間知らずの殿様を少々皮肉ったもの。
武士が食べるについて
下魚とされたサンマ以外にも殿様や武士が意識して食べなかった魚も多数あります。
コハダの成魚コノシロは「この城(を食す)」に通じるとして食されなかったという意味と切腹するものに最後に供されるものとして嫌われていました。
またフグは毒に当たって死ぬことは不名誉なこととして大っぴらには口にされませんでした。平和な時代でも命は主君のためにという考え方は根強かったものと思われます。
現在では高級魚のマグロも別名の「シビ」が「死日」に通じることから縁起を担いで食べられなかったそうです。
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