落語 千早振るのあらすじ 江戸時代の豆腐事情とは
千早振る
ご隠居のところに熊さんが血相を変えて転がり込んでくる。
娘が百人一首に凝りだして、在原業平の
「千早振る 神代もきかず竜田川 唐紅に 水くくるとは」
という和歌の意味を聞いてきた。
わからないなんて父親の沽券にかかわるから、厠に入るふりをして窓を破って逃げてきたという。
是非ご隠居の知恵をお借りしたいというが、聞いた相手が悪かった。
ご隠居も素直に知らないとは言えない性格で、いいかげんな説明がはじまる
ご隠居:
「まず竜田川だが これを川だと勘違いしているところが おまえさんの浅ましいところだ
竜田川は大関にまで上り詰めた相撲取りの名前
相撲一筋だった竜田川が吉原の女郎 千早大夫に惚れてしまったが、あえなく振られる これで千早振るだ
千早太夫がダメならと妹女郎の神代はどうだと声をかけるが、神代も言うことを聞かない
これで神代もきかずだな
さらにこの一件は皆の知るところとなり、竜田川が土俵に上がるたびに”振られ大関~”と野次が飛ぶ
傷心で相撲に身が入らないし、お抱えの殿様にも顔向けできない竜田川は国元に帰って豆腐屋をはじめた」
熊:
「ちょっと待って下さい。大関がいきなり豆腐屋ですか?」
ご隠居:
「まあ聞きなさい」
ある日店番をしているとぼろ布のような着物を着た女が店頭に立つ
女:
「おからを分けてくれませんか しばらく何も食べていないのです」
竜田川:
「おからくらいいくらでもお上がんなさい」
と竜田川が女の顔を見ると、なんと落ちぶれた千早太夫の成れの果てだった
熊:
「今度は太夫がいきなり物乞いですか?」
ご隠居:
「いいから最後まで聞きなさい」
竜田川は相撲を続けられなくなったのは千早のせいだと恨みに思っていたから、おからをくれるどころかド~ンと千早を突き飛ばす。
おからがもらえず、これでからくれない
突き飛ばされた千早は自分の行く末を悲観して井戸に身を投げてしまった。
ご隠居「井戸に身を投げたから 水くくるだ」
といつの間にか和歌が相撲取りと遊女の愛憎劇に
熊:
「でもとわはどこいったんです?」
ご隠居:
「とわくらいまけとけ」
熊:
「いやそういうわけにはいきません」
ご隠居:
「あ!思い出したとはは千早の本名だった」
噺の和歌の意味
さまざまな不思議なことが起こっていたという神代の昔でさえも、
こんなことは聞いたことがない。龍田川が(一面に紅葉が浮
いて)真っ赤な紅色に、水をしぼり染めにしているとは
ちなみに竜田川は言うまでもなく相撲取りの名前ではありません^^;
奈良県斑鳩町を流れる一級河川です。
江戸時代の豆腐事情について
江戸の三白と言って白米、大根と並んで豆腐は江戸っ子の好物で 現代のものとは異なりギュッっと詰まった固いもので、1丁食べれば満腹になったといいます。
また豆腐料理だけを集めた豆腐百珍というレシピ本も発行されていました。
豆腐屋の多くは旦那が行商で売り歩いていたといいます。店舗が構えられるということは竜田川は裕福だったのでしょうか。(もちろんご隠居の妄想の人物ですが)
今では豆腐の専門店は少なくなりましたが、昔はおからは店頭にうずたかく積まれていたといいます。
また、おからは農家では家畜の飼料としても需要がありました。今では産業廃棄物として逆にお金を払って廃棄しているとか。もったいない話です。
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