落語 薮入りのあらすじ 薮入りの意味と江戸時代の休みについて
薮入り
奉公に出た息子の亀吉が久しぶりに帰ってくることになった。
三年ぶりに会える息子のことを考えるとなかなか寝付けない熊さん。
帰ってきたらあれを食べさせてやれ、あそこへ連れて行ってやろうとかうるさくて仕方がない。
あまりにもしつこいので「落ち着いてさっさと寝なさい」と女房に怒られる始末
なんてことをしているうちに朝になる。
熊さんが、まだかまだかとソワソワしているうちにようやく息子の亀吉が帰ってきた。
亀吉:
「お父様、お母様ただいま帰りました。おかわりはございませんか」
すっかり成長した息子の姿に感極まって泣いてしまう熊さん
息子を銭湯に送り出し、女房とあれこれと話していると、息子の財布の中から大金を見つけてしまう
給金にしては多過ぎる、悪いことをしたお金では?心配する二人
熊が銭湯から帰ってきた息子を問いただすと
亀吉:
「悪いお金ではありません。ねずみが増えて悪い病気がはやっているので、ねずみを捕まえて番所に届けていました。そのうちの一匹が懸賞に当たって賞金をもらいました。店の主人に渡していましたが、薮入りだから両親に渡しなさいと言われました。」
それを聞いた熊さんは胸をなでおろし
熊:
「疑って悪かったな。これからもご主人を大事にするんだぞ。ねずみの懸賞が当たったのも奉公先のご主人への忠(チュウ)のおかげだ」
薮入りのオチについて
もしかしたら文字にしないとわかりにくいオチかもしれませんので念のため。奉公先の主人への忠義(チュウギ)とネズミの鳴き声チューをかけているわけですね。
江戸時代10歳くらいで商店に奉公に出ると店に住み込みが当たり前で最初の三年間は実家に帰ることすら出来ませんでした。
最初の三年を過ぎると年に2回 1月16日と7月16日が薮入りといって休暇がもらえ主人に新調してもらった着物をきて帰ることもあったようです。
3年目にようやく里帰りを許されて久しぶりの親子の対面。子供の成長というのは早いので3年も会わないものですから、否が応でも「立派になったなあ…」となるわけです。
まとまった休みがない割りに子供の奉公人は給金は小遣い程度しかなく、実際に財布に大金があったら店の金に手をつけたのでは?と思っても仕方がないでしょう。
こういう習慣は江戸や明治時代だけの話ではなく、戦後くらいまで続いていたそうです。このような雇用形態も当時としては当たり前のことで「他の子もやってるから自分もやって当たり前」と本人も疑問も抱かなかったでしょう。日本人の同調圧力恐るべし…
ちなみに亀吉が捕まえて懸賞金を貰ったねずみについてですが、東京市に実際にあった条例で、ペスト対策のために明治三十三年(1900年)一匹五銭で買い上げていたそうです。
なかには大量に地方から仕入れてきてねずみで一財産築いたものもあったとか…ねずみなんて見なくなって久しい現代では想像できない話です。
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