落語 時そばのあらすじ 男が来たのは現代の何時だったか
時そば
夜の街を流すそば屋を威勢のいい職人風の男が呼び止めた
男:
「おう、そば屋さん、何が出来るんだい?え、花まきにしっぽく?じゃあしっぽくをこしらえてくんねぇ熱いのを頼むぜ」
この男お世辞で次から次へとそば屋の親父を褒め始める。
男:
「この店の看板は変わってるねぇ矢が的に当たってるから当たり屋か。こいつぁ縁起がいいや俺はそばが好きだからなおめぇんとこの看板見たらまた来るぜ」
そばが出来上がるとまたお世辞が続く
男:
「おう、もうできた。ばかに早えじゃねえか。こちとら江戸っ子だ。気が短けえからあつらえものが遅せえとイライラしてくらあ。この出汁いい味だ。鰹節を奮発したね。麺は細くてコシ強い。最近はうどんみてえに太くて柔らけえそばを出す店もあるが、あれはいけねえや。おっ、本物のちくわを入れてるな。そんなに厚く切ってよ、豪勢なもんだ」
やけに上機嫌な男はとにかく何でも褒めてお世辞を並べ立てた。
やがて勘定。そば屋が十六文ですというと
男:
「小銭だから間違えるといけねえ。手を出してくんな。勘定しながら渡すから」
店主:
「では、こちらへいただきます」
とそば屋の店主は手を差し出す。
男:
「一、二、三、四、五、六、七、八
ところでいま何時(なんどき)だい?」
店主:
「へえ、九つでございます」
男:
「十、十一、十二、十三、十四、十五、十六 じゃあ確かに十六文」
と十六文払うとさっさと行ってしまう。
このやりとりを見ていたちょっと間抜けな与太郎。なんで途中で時刻なんて聞いたんだとと首をひねったところ、一文ごまかしたのに気が付いた。
なるほど自分でもこの手を使ってみようと、あくる日別のそば屋を呼び止めた
与太郎:
「お、この店の看板は矢が的に…当たってない…この汁…は出汁がきいてなくて塩っからい。麺は太くて柔らけえ。まあいい太いほうが食いでがあらあ。ちくわも厚くて…これはちくわぶだ」
無理に褒めて食った上でお待ちかねの勘定に
与太郎:
「勘定しながら渡すぜ。手を出してくんねえ」
店主:
「へえ、これへいただきます」
男:
「ほらいくよ、一、二、三、四、五、六、七、八、今何時だい?」
店主:
「へえ四つでございます」
男:
「五、六、…」
結局四文損することになる。
ごまかした金額について
一文を現代の金額で推定すると、約25円。ごまかしてもたいして嬉しくないし、損しても痛くはない金額と言えそうです。
ちなみにそばの値段の16文は江戸時代のかなり長い期間安定して保たれていたといいます。16×25円=400円と計算すると現代の駅そばの値段ともほぼ同じになるから驚きです。
時刻について
日本には宣教師が伝えたという機械時計もありましたが、その時計は時刻を等間隔に刻む定時法が前提の時計だったので江戸時代の不定時法ではあまり役には立たなかったようです。
不定時法では季節によって昼夜の長さが異なり日の出が明け六つ、日の入りで暮れ六つとなり、九つというと現代の午前0時頃になり、与太郎は四つに来たということは現代の時刻だと22時前後ということ。
職人風の男にくらべると、ずいぶんせっかちにそば屋に来ていることになります。
※九つの一刻前が四つになるのでややこしいです。一刻は2時間となります。
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