落語 宿屋の富
馬喰町の暇そうな宿屋にふらりと泊まりに来た小汚い身なりの男
主人はせっかく来てくれたお客様ということで愛想よく対応するが男は「構わずにほっといてほしい」と言い出した。
聞けば、自分は大金持ちで面が割れているから、いい宿に泊まると終始もてなしを受けてゆっくりできない。
一人でのんびり泊まりたいから、わざとみすぼらしい恰好をして、ほったらかしにしてくれる宿を探していたという。
さらに男は景気のいい話を続ける
方々に金を貸しているんだが、返す時に利息が付いて返ってくるから金蔵が足りなくて困っている
泥棒の一団が盗みに入ったが、千両箱10個しか持って行かなかった。その上、役人が泥棒を捕まえて来たので金も戻ってがっかりだ
人のいい宿の主人は男のホラ話ですっかり金持ちだと信じ込んでしまい、それならばということで一つ相談をする
主人:
「恐れ入りますが、副業で富くじを扱っておりまして、ここに売れ残りが一枚ございます。残り物には福があるということで買い取っては頂けませんか」
男:
「俺が千両出すんなら喜んで買うが、当たってしまうと金が増えて困る」
主人:
「まあそういわず助けると思って」
富くじの金額は一分と高額だが、今まで散々景気のいい話を続けてきた手前、男は はっきり「いらない」とは言いづらい。
全財産の一分で富札を買い取ると「当たったら半分あげる」と調子のいい約束までしてしまう。
なけなしの金で富くじを買ってしまい意気消沈の男。翌朝になると富くじの発表の鐘がなる。
当たってなければこのまま逃げるかと考えながら神社へ結果を見に行くが、なんと千両の大当たり。真っ青な顔で宿に帰ると布団にくるまって寝てしまった。
そこへ発表を見た宿の主人も大慌てで入ってくる。
主人:
「お客様起きてください。あの札が当たりましたよ!」
よく見ると主人は興奮のあまり下駄のまま部屋に上がっていた
男:
「なんだい千両くらいでみっともない。静かにしてくれ」
主人:
「まあ起きてください。祝い酒といきましょう」
主人が布団を捲ると男も下駄を履いていた