落語 素人鰻
江戸から明治の世となり武士は士族と呼び名が変わる。幕府もなくなり自分で商売をしようと考える元旗本の主人。
妻と一緒に小料理屋をやろうとか しるこ屋にしようとか色々考えるがこれといったアイデアが浮かばない。
するとそこに板前の金蔵が「自分が手伝うから鰻屋なんてどうです?」とすすめてくる。
主人:
「おまえの腕はいいのは知っているが酒癖が悪いもの知っているぞ」
金蔵:
「私は旦那様に恩があるから酒は一切飲まないと誓います」
それを聞いて安心した主人は鰻屋を開く
腕の良い金造の働きで開店初日から店は繁盛し「これも金蔵のおかげだ」と感謝した主人はうっかり 金蔵に酒をすすめてしまう。
二杯三杯と盃を重ねるうちに段々と横柄な態度になってくる金蔵
しまいには
金蔵:
「三千石の旗本が鰻屋とは驚きだ。だいたい旗本がだらしないから負けるんだ(戊辰戦争に)」
人が変わったように悪態をつき、怒った主人は刀を振り回して金蔵を追い出してしまった。
翌日 金蔵がいないので店が開けられない。妻は「休業の札を出しましょう」と言うが開店翌日にそんなことはさすがにみっともない。
困っているとひょっこりと金蔵が帰ってくる。どうやら昨日のことを反省しているようで主人は金蔵を迎え入れ無事に店を開けるが
その夜のこと こっそり台所で酒を飲む金蔵を発見してしまう。
金蔵:
「飲んじまったもんは仕方ねえ」
開き直る金蔵に主人の堪忍袋の緒が切れた。またもや金蔵を追い出してしまう。
そして翌日
今度こそ帰ってこない金蔵。妻はまたもや「休業の札を出しましょう」
そういっている間に客が店に入ってしまう。鰻など捌いたことのない主人だったが元武士の意地がある。
鰻を前に
主人:
「拙者が料理してくれる。これ動くでない!それ捕まえた観念いたせ!」
するりとまな板から逃げる鰻のせいで手を切ってしまう主人。
糠(ぬか)を手につけてヌルヌル対策をすると、今度こそと鰻をギュッと掴む。またも逃げ出す鰻に対し。
主人:
「こらこら逃げるな。表だ表を開けてくれ。履き物もだ!」
妻:
「あなたどちらへ?」
主人:
「そんなこと前にまわって鰻に聞いてくれ!」
落語 素人鰻明治維新と武士の商法について
落語 素人鰻について
別名 殿様鰻、士族の商法。長く続いた江戸時代が終わり、明治時代となり四民平等の世の中がおとずれます。
今まで藩からもらっていた給料がもらえなくなり困った上級武士は多かったでしょう。
特権意識があり客に頭も下げられない多くの武士が商売に失敗したと考えられますが、下級武士の中にはこれを歓迎した者も意外と多かったのではないかと考えられます。
なぜなら武士の給料は代々家によって固定給となっており、いくさのない世の中ではほとんど出世の見込みはありませんでした。
下級武士の家に生まれてしまえば、一生閑職で貧乏暮らしが目に見えていました。
(ヒマを持て余した武士による名産品や文化の発展などの副産物もありましたが)
己の実力で成り上がるチャンス到来と言うわけです。
武士の成功例を上げると三菱グループの創始者の岩崎弥太郎は土佐藩の下級武士の出身です。
江戸時代が続いていたら下級藩士のまま一生を終えていたんでしょうか。元々才能はあったんだと思いますが、スケールが違いますね