落語 阿武松(おうのまつ)のあらすじ 大関が最高位だった江戸時代の番付
阿武松(おうのまつ)
京橋の武隈という親方の元へ能登の国から若い者が手紙を持って尋ねてきます。
親方が開いてみますと名主からの紹介状。さっそく若者の身体を検め「いい体格だ」ということでめでたく新弟子ということになり四股名は「小車(おぐるま)」ということに決まります。
新弟子ということで小車が台所で働き始めますが、どうも米の減り方が以前より激しいことにお上さんが気付きます。
原因は小車がご飯を並外れて食べること。赤ん坊の頭くらいのおむすびを10個も食べる。これが朝飯前。
お上さん:
「あんなの置いといたら身上をつぶされちまうよ。なんとか言ってヒマを出したほうがいいんじゃない」
お上さんに促されて小車を呼び出す親方
武隈:
「小車おまえは大層飯を食うそうだな。昔から無芸大食と言って、大飯ぐらいには碌な奴がいねえ。おまえにはヒマを出すことにした」
部屋を追い出された小車は期待されて故郷を出てきた手前簡単には帰れない。ましてや大食いが仇となってヒマを出されたなんて恥ずかしくて合わす顔がない。
川に身を投げて死んでしまおうと考えるが、この世のおまんまの食い納めということで持たされた一分の金で思う存分食べてから死ぬことにした。
宿を取ったのが板橋宿の橘屋善兵衛の旅籠
一分の金を渡して
小車:
「何も注文はないが、おまんまだけはもういいとこっちがいうまで食べさせてください」
と宿の者に頼むと、ただでさえたくさん食べる人が、この世の飯の食い納めということで、もう食べる食べる
その話が主人の橘屋善兵衛に伝わり、わけを聞かれる
小車がおまんまの食いすぎで武隈部屋からヒマを出されたと知った橘屋善兵衛は懇意にしている錣山親方を紹介してやろうと提案。
また大食いで破門にならないか心配する小車になんと幕の内に上がるまで毎月お米を五斗俵二袋分差し入れてくれるという
善は急げで早速 翌朝錣山親方の元へ
錣山親方に会わせこれまでの事情を説明すると
錣山親方:
「この若者ですか。うん いい 素質がある、武隈関は思い違いをしているようだ相撲取りが飯を食わねえでどうするんだ」
錣山親方は小緑(こみどり)という自分が以前名乗っていた名前を新しい四股名として与えて弟子にした
死ぬ気になって相撲に精進し文化十二年十二月 序の口四枚目 小緑長吉と初めて番付に載り
小緑改め小柳長吉、蔵前八幡の大相撲に念願の入幕を果たすと初日、二日、三日と連勝とうとう四日目に元師匠の武隈関との割が出た
この割りを見て喜んだのが師匠の錣山
錣山:
「明日はおまえの旧師匠の武隈だ。しっかりやれよ」
小柳:
「明日負けては橘の旦那に顔向けできません。おまんまの仇武隈文右衛門」
勝負当日の小柳は見事に武隈を投げ飛ばし会場はやんやの喝采
この勝負が長州毛利の殿様の目に留まりお抱え力士となり、文政十一年春 六代目の横綱を張った阿武松緑之助出世の話
実在した阿武松緑之助
盛岡藩南部家・萩藩毛利家のお抱え 文政11年(1828年)に横綱昇進
阿武松緑之助の四股名は萩の名所 阿武の松原(おうのまつばら)から取ったもの
現在の相撲の最高位は「横綱」ですが江戸時代は「大関」が最高位で横綱は綱を張る資格や名誉のある称号のようなものでした。
阿武松は実在の力士で人気はあったが、慎重な性格なのか立会いで「待った」が多かったという記録もあります。
噺のように五斗俵二袋を一月(一日三升)も御飯を食べたかどうかは定かではありませんが、大食の力士ということで落語以外にも登場します。
江戸時代の相撲興行について
相撲興行は江戸時代で春秋2回、京都で夏、大阪で秋の計4回行われるようになりました。
この興行にはそれぞれの部屋の力士が親方も含む 全員参加したため、噺のラストのように武隈と阿武松の対戦が実現しました。
現代の相撲で見ると親方が土俵に上がるのは不自然ですが江戸時代では普通のことでした。
話に登場する阿武松、武隈、錣山の名跡は残っており、悪役にされる武隈は少々気の毒な感じもします(笑)
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