落語 鹿政談のあらすじ
奈良三条横町で代々豆腐屋を営んでいる与兵衛
今日も朝早く起きて暗いうちから豆腐を作っていると店の表で音がする
外はまだ暗いが覗いてみると大きな犬が商品を食べているようだ
商品を朝一から犬に食べられるのは嫌なもので シッシッっと追い払ってはみたが逃げる様子もない
与兵衛はさすがに腹が立ってそばにあった薪を投げつけると 打ち所が悪かったのかその場に犬は倒れてしまった
表へ出て確かめてみると 倒れた動物は犬ではなく鹿
故意過失に関わらず鹿を死なせたものは死罪
鹿を神の使いと見る横町でこのお触れを知らないものはいない
慌てた与兵衛は色々な手を尽くしてみるがそれも虚しく鹿は息を引き取ってしまった
そのうち夜が明けて近所の者たちが外へ出てくると「大変だ!豆腐屋の前で鹿が死んでいる!」と大騒ぎ
鹿を管轄する役人の塚原出雲 この者の訴えで奉行所へ行くことになった
かかわりのある一同 与兵衛をはじめ奉行の前に集められる
奉行:
「豆腐屋 与兵衛 願い人一同 表をあげい」
奉行の取り調べが始まった
奉行:
「豆腐屋与兵衛その方 生まれはいずれのものであるか?」
「そちには己で致したことがわからぬようになる病などはないか?」
いくら鹿が神の使いとはいえ所詮は畜生 人の命には代えられないと考えた奉行は温情をかけようと あの手この手で有利な証言をさせようとするが正直者の与兵衛には通じなかった
与兵衛:
「お慈悲のお言葉ではありますが 恐れながら申し上げます。私は代々奈良三条横町で豆腐屋でございます」
奉行:
「さようか暫時控えておれ」
鹿の死体を持ってこさせる奉行 鹿の検分がはじまった
奉行:
「これは鹿ではないな 奉行の見るところ犬に思う。おまえたちはどのように思う?わしの見立ては犬に思うが?」
奉行が他の者たちにも意見を求める
奉行の家来も与兵衛の付き添いの者も奉行の心の内を汲み取って皆 口を揃えて「犬のように心得まする」と話を合わせる
一同も犬 奉行も犬という意見で一致するが 訴え出た塚原出雲だけは納得しない
奉行:
「そちは役目熱心なあまり毛並みの似た犬を鹿とを勘違いしたに違いない 願い下げにいたしてはどうじゃ?」
塚原:
「手前長年鹿の守役を務めておりますが 毛並みが似ているとは言え犬と鹿を間違えるわけがございません」
何度も犬ではないか?と念押ししても塚原出雲は犬であるとは言わない
この辺りで奉行の顔色が変わってくる
奉行:
「鹿の守役は鹿100頭ほどに対し餌料三千石をお上より賜っておると聞くが 鹿全体に十分な餌が行き届いておるようには思えぬ。
鹿が豆腐屋の商品に手をつけたのもそちが餌料を懐に入れているせいではないか?こちらの方を先に取調べを行う必要がありそうだが もう一度問おう 犬か?鹿か?」
奉行の一喝に身に覚えのある塚原出雲はついに折れて「犬です」と返答
死んだのが犬であれば御咎めなしという結論で与兵衛は無罪放免
そこへ奉行が与兵衛に声をかける
奉行:
「与兵衛 その方商売は豆腐屋じゃのう?キラズ(斬らず)にやる」
与兵衛:
「はは~マメ(豆)で帰れます」
落語 鹿政談のオチの解説
ちょっとトンチの効いたオチになっていますが分解して解説していきます。
キラズ(斬らず)にやる
キラズ=おから、卯の花のことで 豆腐は四角に切るの対し おからは切らずに商品にするというところからきています。
奉行は与兵衛が無罪になったので おからを意味するキラズと打ち首にはしないぞという意味の「斬らず」が掛かった台詞をいいます。
マメ(豆)で帰れます
対して与兵衛はマメで帰れます=無事に帰れますという意味の台詞を返したもの
※「マメで暮らします」というオチの場合もあり(豆腐屋を続けられますという意味でしょう)
どちらにしても与兵衛の生業である豆腐屋が扱う大豆を連想させたオチ
奉行「打ち首にはしないぞ」
与兵衛「はは~無事に帰れます」という流れ
キラズというワードについて
おからのことを「キラズ」というのが今では一般的ではなく 近畿地方の友人に「おからのことキラズって言うの?」と聞いてみたところ「なんだそれ?」と言われてしまいました(-_-;)
キラズというワードが一般的ではないため 噺の途中でさりげなく解説が入ることも多いです。途中で入る「キラズ」の解説を聞き逃してしまうと最後のオチで???となってしまうので注意が必要です(笑)