落語 強情灸のあらすじ 江戸っ子と上方の金銭感覚について
強情灸
よく効くと評判のお灸の店「峰」の灸はやたら熱いことでも巷では評判
そこへ言ってきたという友人の話を聞いて男がひとつ試してやろうと「峰」へ出かける。
店に着くとよく効くと評判なだけあって、店の前には長蛇の列だったが灸が怖くて尻込みしていた娘さんに順番を譲ってもらってなんなく入店した。
店の人から
店員:
「うちの灸は大変熱いですよ 大丈夫ですか?」
と念を押された男は腹は立てつつも内心ビクビクしながらも負けず嫌いなものだから勇ましく啖呵を切る
男:
「なんだそんな米粒みたいな灸、俺なんか富士山ほどの灸だってビクともしねえや、だいたい灸ぐらいで熱いって逃げ出す奴は江戸っ子の看板おろせってんだよ」
店の人もよしそれならばと、おにぎりのようにでかい灸を男に据えたからたまらない。
男はカチカチ山の狸のように煙を上げながらも啖呵を切り続ける。
男:
「なんのこれしき、八百屋のお七は火あぶりにされたんだ。石川五右衛門なんて釜茹でにされながら辞世の句まで詠んだって話だ。江戸っ子ならこんなもん屁でもねえ!」
だが段々と火が回ってくると啖呵は呻き声に変わる。
男:
「く~っ 石、石、石川…」
そこで店の人は
店員:
「熱いでしょう無理はやめておきなさい」
と降参をすすめるが
男:
「誰がそんなこと 平気だって言ってるだろうが!あっつ、熱!」
我慢できずに思わず灸を払い落としてしまった
店の人は真っ赤になった男の腕に水をかけてやると
店員:
「どうです?熱かったでしょう?」
男:
「いや~俺は熱くなかったが石川五右衛門はさぞかし熱かったろう」
江戸っ子について
「江戸っ子」という言葉が初めて登場するのは明和8年(1771年)の「江戸っ子のわらんじをはくらんがしさ」
という川柳といわれています。江戸っ子は草鞋を履くのも騒がしいというような意味です。
また今日の江戸っ子のイメージとしては「金ばなれがいい」「いき」「はり」「いなせ」などでしょうか。
「いき」は垢抜けして洗練された色っぽさ、「はり」は反抗心を含む心意気、「いなせ」は威勢のよさを表します。
落語的な脚色も大いにありますが、噺の中に登場する男は「はり」と「いなせ」を兼ね備えた江戸っ子のようです。
金ばなれについては「宵越しの銭はもたない」「江戸っ子の生まれ損ない金を貯め」
などと江戸っ子金銭感覚を表現したりします。
一方、上方の井原西鶴は著書の日本永代蔵の中で「人は人たるためには金銀を貯めなければならぬ」と記しており、江戸と大阪ではかなり金銭に対する感覚が異なったように思われます。
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