落語 首提灯
深夜 芝増上寺の辺りを男が一人で歩いている
男は酒を飲んでいるようで足元がおぼつかない
やがて辻斬りが出るという場所に差し掛かると、怖さを紛らわすために大声を出しながら歩き始める。
とそこに暗がりから急に「おい」と呼び止める声がする
武士:
「おい、そこの町人 麻布にはどう参る?」
辻斬りかと思って最初はびっくりした男だったが、そうではないとわかると酔っているせいか、だんだん威勢がよくなってくる。
男:
「おい(甥)とはなんだ おまえは俺の伯父さんか?口の聞き方がなってねえ」
武士は「失礼したと」丁寧な口調で聞き直すが、男は相手が地方出身の田舎侍だとわかると もう勢いが止まらない
次々に罵詈雑言でまくし立て「相手にしても仕方ない」とあきらめて立ち去ろうとする武士の着物に痰を吐きかける
武士:
「おのれ 殿より賜った紋服に痰を吐きおったな」
これには堪忍袋の緒が切れた武士は「えい」っと気合とともに一太刀浴びせると静かに立ち去っていった
武士の腕前が神がかり的だったので男は斬られたのにも気付かずに悪態をつき続ける
男:
「なんだ一人じゃ敵わねえから助太刀でも呼びに言ったのか?この丸太ん棒」
鼻歌交じりで歩き出すとなんだかフラついているような気がする。しばらくするとだんだん首が横向きに。
なんとか正面を向かせようと両側から首を押さえると手には血がべっとり。ここでようやく斬られたことに気がついた。
男:
「あの田舎侍め首を斬りやりやがったな畜生。歩きにくくってしかたがねえ。情けねえことになっちまったな」
とそこに火事を知らせる半鐘の音がジャンジャン鳴り響く
「どいたどいた」「ごめんよごめんよ」と火消しや野次馬達で辺りはごった返す
男:
「おっと大事な首を落としちゃいけねえ」
男は提灯のように首を掲げて
男:
「はい、ごめんよごめんよ」
落語 首提灯武士の切捨て御免について
落語 首提灯について。
時代劇では御馴染みの武士による町人への切捨て御免。町人は一方的に武士に虐げられ恐れていたかというと少々事実とは異なります。
武士の多くは地方から参勤交代で来た出張族。それが江戸の町人(将軍の民)を斬っておいてまったく責任を問われないということはありませんでした。
どういう経緯で切り捨てることになったか吟味が行われ、まったくお咎めなしということは少なかったようです。
江戸時代はトラブルをおこして失職などしてしまえば再就職など難しい泰平の世の中。酔った町人とのいざこざを避けて繁華街には近づかなかった武士もいたと伝えられています。
またそれを知っていて傾奇者(かぶきもの)の町人はわざと喧嘩を吹っ掛けたりするものもいたそうです。
面倒は避けたい武士と喧嘩っぱやい江戸の町人 なんだか時代劇とはイメージが大きく違って見えてきます。
こちらは逆に武士の首が飛ぶ噺
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