落語 粗忽の使者のあらすじ
まじめな性格の武士 地武太治部右衛門だが 子供のころから大変そそっかしい
その治部右衛門が殿様から使者として赤井御門守のお屋敷へいくよう仰せつかる
大役を受け嬉しくなった治部右衛門 はは~と深々と頭を下げ 大急ぎで自分の屋敷へ帰ると そそっかしいのでやっとのことで支度をして やっとのことで馬を用意して赤井御門守のお屋敷へ到着する
使者の到着で屋敷の御門が開き 治部右衛門は御使者の間へ通される
そこへ現れたのが取次ぎ役赤井御門守の家臣 田中三太夫
田中:
「御役目御苦労様でございます して御使者の御口上は?」
そこで治部右衛門は困ってしまう 殿から何を聞いてきたのか思い出せないのだ
治部右衛門:
「う~ん…使者の口上貴殿はご存知か?」
もちろん田中が知るわけがないし、使者の口上を聞かないうちに勝手に主に取り次ぐわけには行かない
治部右衛門:
「口上を忘れてしまうとは何たる不覚 かくなる上は ご当家のひと間をお借りして拙者切腹つかまつりまする」
お戯れでは?という表情の田中と真剣そのものの治部右衛門
だが治部右衛門が本気で腹を切ろうとしているのだとわかると
田中:
「なんとか思い出す方法はござらんか?」
治部右衛門:
「拙者は生来の粗忽者 両親もそのことを心配しており 私が物忘れをするたびに グ~ッっと尻をつねってくれました。するとその痛さに忘れたことを思い出すのでございます」
そのようなことで思い出してくださるならお安い御用でございますと
田中は治部右衛門の尻をつねる
いかがでござろう?
まだまだ
いかがでござろう?
まだまだ
いかがでござろう?
田中がどんなに力を入れてつねっても治部右衛門はつねられ慣れているのでまったく効果がない
そなたは優しすぎる 当家には指先の力の強いものはおりませんかな?困り果てる田中だが指の力が強い家臣が思い浮かばない
しばしお待ちくだされと 一度隣の間へ引っ込み他の家臣と相談していると
一部始終を見ていた大工の留が名乗り出る
留:
「思い出さないと腹切るっていうんでしょ?あっしがなんとかしやしょう」
赤井家の家臣ではないものに尻をつねらせるわけにはいかないが、切腹などされては一大事
大工の法被(はっぴ)を着替えさせ髷を結い留太夫という家臣に仕立て上げた
大工の留こと留太夫は武士の尻をつねられることになって楽しくて仕方がない。
留:
「大勢の前で尻をつねられるのは恥ずかしいでしょう」
人払いをすると腕をまくる。
留:
「じゃあ はじめるよ どうでい?これくらいの按配で?」
しかしつねった部分はつねられなれているせいでタコになって皮膚が硬くなっている まったく通じていない様子だ
むむむ…留太夫は懐から隠し持っていた釘抜きを取り出すと尻の白い部分を狙って
これでどうだ!とばかりに捻りあげる
治部右衛門:
「なかなかの力だがもっと強く…ん~~」
お、お、お、思い出した
それを聞いた三太夫が隣の間から飛び込んでくる
して御使者の御口上は?
治部右衛門:
「主より口上を聞かずに参ったのを思い出した」