落語 猫の忠信
次郎吉が長唄の稽古に行こうと同じ長屋に住む六兵衛を誘いにくるが 六兵衛はもう馬鹿馬鹿しくて行く気がないという。
なんでも長唄の女師匠が男と仲良く酒を飲んでいるのを目撃してしまい、その男と言うのが よりによって兄貴分の吉野屋の常吉だからだと言う
常吉は身持ちの固い男だからそんなの嘘だと信じなかった次郎吉だったが 師匠の家を覗いてみると言われたとおり二人は肩を寄せ合って酒を差しつ差されついい雰囲気
女師匠目当てで稽古に通っていた次郎吉と六兵衛にとっては腹に据えかねることだ
「抜け駆けしやがって!」しかし兄貴を二人がかりでとっちめてやろうにも二人まとめて返り討ちだろう
そこで思い付いたのが兄貴のおかみさんに言いつけてやろうという案
おかみさんは大変な焼きもち焼き
二人の商売は瀬戸物屋と包丁屋ときている 「こりゃ家中に皿や出刃包丁が飛んで面白いし、いろいろ壊れるから商売になるぞ」とほくそ笑む二人
早速常吉の家に向かうと おかみさんは縫い物をしている
今度の町内の出し物 義経千本桜の衣装作りの真っ最中 二人も参加する予定の出し物だ
さっそく「言いたくはないけど言わないとわからなからいうけどね」と先ほど二人が見たことを洗いざらい話すが
おかみさんは「あらそう」と予想に反して無関心そうな反応
おかみさん:
「昨日見てきたと言われれば信じたかもしれないけど 今と言われれば嘘としか言いようがないね うちの人は奥で寝ているもの」
そこへ寝起きでぬっと出てくる常吉に狐につままれたような気分になる二人
次郎吉:
「さっき師匠の家で見たのも兄貴、ここにいるのも兄貴いったいどうなっちまったんだ?」
とにかく来てくれと寝ぼけ眼の常吉の手を引っ張って師匠の家に行く一行 常吉が家を覗くとなるほど自分が師匠と差し向かいで酒を飲んでいる
常吉:
「あれはきっと物の怪の類だ ああいう奴らは人間と違って耳をひっぱられるのを嫌がる おまえたち俺から酌を受ける振りをして耳を引っ張って来い 正体を現したら俺が踏み込むから」
策を授けられた二人は何食わぬ顔して上がりこみ、酌を受ける振りをして偽常吉を押さえつけ耳を引っ張る
すると耳がピクピクっと不自然に動く
次郎吉:
「兄貴!ピクピクだ!」
そこへ常吉が踏み込んでくる
常吉:
「野郎俺に化けやがって 直々に調べてやるから観念しろい!」
すると偽常吉が芝居がかった口調で話し始める 「自分は猫の化身で師匠の家の壁にかかっている三味線は自分の親の皮で作られたもの 親恋しさに師匠を誑かしたこと…」
一通り語り終わると大きな猫の化身が正体を現す
次郎吉:
「まさか猫が正体だったとは…
しかし兄貴!こりゃあ縁起がいい 今度の出し物はきっと大当たりだ
兄貴が吉野屋の常吉で義経
俺が駿河屋の次郎吉で駿河の次郎
六兵衛が亀屋の六兵衛で亀井の六郎
狐忠信っていうのがいたが 猫がタダ酒を飲んでたから猫のただ飲む
義経千本桜役者が揃ったね」
常吉:
「おまえらしくもねえ 肝心の静御前がいないじゃねえか」
次郎吉:
「それならご当家の師匠が静御前にぴったりだ」
師匠:
「そんな…私が静御前だなんて似合うものかね」
その時猫がすっと顔をあげて
猫の化身:
「にぁう」
落語猫の忠信義経千本桜のパロディー部分の解説
落語猫の忠信 歌舞伎の演目が元ネタになっている話です。
まずオチ 師匠の「似合うものかね」を受けて正体を現した猫の化身が「にぁう=似合う」と一声鳴いた。
オチはわかりやすいですが、途中の噺は義経千本桜のパロディとなっており、知っているとまた味わいが変わってきます。
以下義経千本桜のあらすじを簡単に
義経と義経の愛妾の静御前。頼朝の追手から一緒に逃げていましたが、義経は静御前の身を案じ、途中で別れることとなります。そこで義経は形見にと「初音の鼓」を手渡します。※初音の鼓は後白河法皇から下賜されたもので兄弟喧嘩の元
しかし一度は別れ別れになったものの静御前は佐藤四郎兵衛忠信(さとうしろうびょうえただのぶ)とともに義経の元へ向かいます。
吉野山の険しい山道、女性の身には堪えます。気が付くと一緒にいた忠信とはぐれてしまった様子。そこで静御前は義経からもらった「初音の鼓」を打ちます。
すると忠信が静御前の元にもどってきますが、実は元々一緒にいた忠信は初音の鼓に皮を貼られた千年キツネの子。親恋しさに忠信に化けて現れたというもの。
※落語の中では猫の化身の親の皮が三味線に使われていました。
シーン変わって義経が匿われている川連法眼の館に本物の忠信が訪ねてきます。そこで義経から静御前はどうした?と問われると何のことやら?
そこへ静御前ともう一人の忠信(狐)の到着の報が…
静御前は義経にすがりつきますが「一緒にいた忠信はどこだ?」の問いに「さっきまで一緒にいた忠信と何かが違う」
そこで初音の鼓を打つともう一人の忠信(狐)が現われる 怪しい奴と義経から渡された刀で切りつけると狐忠信は「その鼓の皮は私の父と母 親恋しさに鼓についていたのです」と告白し狐の正体を現します。
狐の親子でも思い合っているのに私は兄にも憎まれる…と悲しむ義経
このようなストーリーとなっています。現代では少々わかりにくい元ネタではありますね。