花見の仇討ち
長屋の三人組が花見へ行こうということになるが、ただ花見では面白くないので何か趣向を凝らそうと相談する。
八五郎:
「仇討ちの芝居なんてどうだろう?俺が仇討ちの巡礼、熊が仇役の浪人、与太は仲裁役の六部になれ」
話の流れは 桜の木の下にいる仇役の熊に巡礼役の八五郎が煙草の火を借りにくる
すると巡礼は火を借りた相手が自分が追っている仇だと気付き「汝は父の仇!いざ尋常に勝負!」
仇討ちだ!と花見の客で人だかりになるだろう。そこへ六部に扮した与太郎が割って入って双方をなだめる
さらに背負っている行李から鳴り物を取り出して皆で踊れば 「花見の趣向だったか」と拍手喝采間違いなし
面白い!乗った!と男たち それぞれの役割の姿に扮して別々に目的地へ向かうことに
一番に出発した浪人役の熊はさしたるトラブルもなく木の下で煙草を吸い始める
ただ他の二人はトラブルに見舞われていた
巡礼役の八五郎はうっかり武士とぶつかってしまい巡礼の格好をしているが手に持っているのは仕込み杖 武士と見たり 勝負いたせ!
あわや斬り合いかとなる寸前で八五郎は
「この姿は仮の姿 実は父の仇を探しています」と出鱈目を言うと侍はいたく感動。許してくれるばかりか「仇に巡り合ったら助太刀をしてやる」という約束までしてくれる
なんとか切り抜けた八五郎だったが、別の場所では六部役の与太郎がトラブルに見舞われていた
親戚の叔父さんに捕まってしまったのだ。
叔父さん:
「やい与太郎 六部の恰好なんかして悪さして江戸から逃げる気か?」
花見の趣向だと説明しても耳が遠い叔父さんには話が通じない。しかも並外れて力が強いときているから家まで引っ張っていかれてしまう与太郎。
酒を飲ませて酔い潰そうとするが叔父さんはまったく酔う気配もない。
どうにも困った状況だがどうしようもない。「もうどうでもいいや…」となってしまう与太郎
そんなことが起こっているとは知らない仇役の熊 待ち合わせ場所の桜の木の下で煙草を吸いながらイライラ
そこへようやく巡礼役の八五郎が到着 そろそろ頃合と芝居がスタート 八五郎が熊に近付き「そつじながら火を拝借」
巡礼八五郎:
「おお汝は父の仇 黒川某 ここで会ったが百年目 尋常に勝負いたせ」
浪人熊:
「何をちょこざいな 返り討ちにせん」
シャキンとお互い刀を抜くと
「大変だ!敵討ちだ!」物見高い花見客が群がってくる。とここまでは計画通り
だが抜刀して睨み合ってはいるが肝心の六部役が来ないので筋書き通りに行かない
だんだん間が持たなくなってきたところへ先ほどの武士が人ごみを掻き分けて登場
武士:
「おお先ほどの巡礼 仇を討ち果たして本懐を遂げられよ」
駆けつけた武士だったが浪人と巡礼が子供の遊びのように斬り合っているものだからじれったくなってきた
武士:
「ええい じれったい拙者が助太刀いたそう」
大変だこのままでは浪人役が斬られてしまう 危険を察知した浪人の熊は一目散に逃げ出した
見物人も驚いた
ああ!浪人が逃げた
いや!巡礼も逃げた
一緒に逃げ出す二人を見て武士が慌てて声を掛ける
武士:
「なぜ逃げられる勝負は五分と五分と見た」
五分じゃあない 六部が来ないんです